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「なでこSMILE」のアニメ感想BLOG

アニメや漫画などについての、自分の思いを記録するブログ

『失われたブヒを求めて』その5~懺悔録(後編):神尾美鈴

※「AIR」に関するネタバレを含みます。ご注意ください。

みなさん、こんにちは。

エロゲーの面白さのひとつは「長い」ことです。
特に恋愛ゲームだとこの特徴は顕著で、なぜテキスト量やプレイ時間を長くする必要があるのかというと、「なんでもない毎日をキャラクターと一緒に少しずつ送ることで、本当にその世界にいるような感覚になる」からです。
だからこそ愛着も思い入れも、物凄く増幅されるのです。
まるで「現実の時間」を模倣したかのように、ゆっくりと進んでいく「仮想の時間」。
何も「バーチャルリアリティー」は、NASAや米軍の専売特許ではありません。
エロゲーさえあればそれは可能なのです。人間の脳をなめてはいけません。
これを「AIR」(Augmented and Idealized Reality)と言います。むろん言っているのは私だけです。

あれはどれくらい前の夏だったでしょうか。
窓の外は雲一つない青空。
ディスプレイの中もまた、同じような青空が広がっています。
七月。
私は素麺を啜りながら、「エロゲー日和だ。クーラーのなんと涼しきことよ」などとつぶやきながら、日がな一日、学校のそばの防波堤の上で寝転んでいました。
私は身寄りのない独り身で、母より生前聞かされた「空に囚われた少女を探してほしい」という遺言を、唯一のよすがとして、浮世を渡り歩いているしがない大道芸人です。
私は麦茶を飲みながら、さすがに冷えすぎてクーラーを切りました。
しばらくすると髪の長い女の子が、学校から戻ってきました。
彼女の名前は「神尾美鈴」。
金髪碧眼のれっきとした日本人です。
年のころは12、3?・・・いや15、6にも見えますが、きっと18歳です。
私のサイコキネシスで動かす人形劇を気に入ってくれ、商売道具である人形を一緒に探したり、その縁で納屋に泊めてくれたり、しまいには家に上がり込んでご飯まで作ってくれて、一緒に食べたり、トランプをしたりとすっかり仲良くなりました。
「学校のテストはどうだったの?」
と聞くと、全然ダメだった。
「美鈴ちん、ぴんち」と答えました。
私は一緒に住んでいる叔母さんに、彼女のことを頼まれており、あまり学校になじめずにいる彼女の送り迎えなどをしておりました。
「まあまあ。テスト?そんなもんどうでもいいじゃないか。学校なんてくだりもしないもの。俺なんか高一のとき以外、体育祭は全部カレー食いに行く日にしてたもんさ。大学の一年の前期だって4単位だぜ?そんなことより『シンを倒す』ことの方が重要だったのさ。わかるだろ?おかげで二年から大変だったけど」などと、ディスプレイの中の美鈴に向かって語りかけました。
彼女はそのたびに、「がお・・・」と困ったような顔で、恐竜の鳴き真似をしたものです。

それからも、扇風機の前で声を出して遊んだり、叔母さんの晩酌の相手をしたり、虫を追い払ったり。
潮騒の音を聞きながら眠り、生命に満ち溢れた光とともに目を覚ます日々は幸せでした。
私は割と散歩をするのが好きなのですが、こうも暑いと外へ出る気もなくなってしまいます。
そういうときは、こうして窓の中の海沿いの田舎町を。
まるで父方の祖父の実家とそっくりな景色を、いろいろと見て回りました。
夕方になると夕食の買い出しに出て、当時住んでいた日暮里の町を野良猫を探しながらうろうろ。
谷中墓地から駅の方には、夕闇をバックに建設中のスカイツリーが見えました。

夏の嘘のような、のんびりとした時間が過ぎていきます。
大体その夏は、昼は大道芸をしに会社へ行き、夜は1話だけ『プラネテス』や『電脳コイル』を見て、寝る前まで美鈴と過ごす。
休みの日には、ルノワールにモーニングを食べに行き、家事をしたあと外の神社に行ったり、中の神社に行ったり、沢に行ったり、町の診療所に行ったり、西日暮里にDVDを借りに行ったり「ぴこぴこ」と鳴く犬のようなのと遊んで、「ぴっこり」などと言って過ごしました。

空を見上げると、もうすっかり夕暮れどき。
茜色の空の下、みんなで吹いたシャボン玉が、駅舎の屋根まで飛んでは消えました。


美鈴の様子がおかしくなったのに気付いたのは、いつ頃のことだったでしょう。
もともと華奢で、体が強そうには見えませんでしたが、どうも調子が悪そうです。
窓の外は、だんだんと秋風が吹く季節になっていました。
風邪でも引いたのだろうか?
ですがディスプレイの中は、まだまだ七月の暑い太陽が照り付けています。
原因はわかりません。
美鈴はだんだんと家の中で過ごすことが多くなりました。
制服よりパジャマ姿の彼女と会う機会が増えていきました。

そのころにはもう、美鈴が辛い過去を持っていることが判明していました。
ほかの女の子もそうでしたが、この町には家庭に問題を抱えている子が多かったのです。
かくいう私も天涯孤独の居候。
美鈴はいろいろと、トランプなどをやろうと言いますが、寝てなくちゃだめだよと説得するようになりました。
駄々をこねる彼女を、なだめるのに必死でした。

それから、彼女は日に日に弱っていきました。
次第に、寝床からも起き上がれないようになってきました。
窓の外にはまだこんなにも夏空が広がっているのに。
それがあまりにも、遠い・・・。

何やら大きな物音が聞こえました。
また性懲りもなく、晴子叔母さんが納屋にバイクで突っ込んだのでしょう。
最初こそ笑っていましたが、もはや全然冗談に見えませんでした。
私は立ち上がりました。
そして美鈴に対するあまりに冷たい態度に、とうとう私は彼女を問い詰めました。
それでも彼女は「しょーもな」という態度を崩しません。
私は居候という自分の身の上も忘れて、大声を出しました。
「美鈴は、あんたに迷惑をかけまいと必死なんだぞ!」
私は怒りでテーブルを殴りつけました。
「私には無理なんや・・・」
てっきり喧嘩になるかと思いきや、彼女は悲しそうな顔をするばかり。
そして、そのまま寝床に行きました。
私はどうすればいいのかわからず、そのまま美鈴が見つけてくれた母の形見の人形を動かし続けました。

七月も終わりに近づきました。
空を焦がす日の青みがさらに深みを増し、地面に落ちる夏影がさらにその色を濃くしていきました。
そして叔母さんは、どこか旅行にでも行くといって、とうとう家に帰ってこなくなりました。

明日からは三連休。
私は風呂をあがると、覚悟を決めてマウスを握りました。
もうこれ以上、のんびりと見守ることはできません。
彼女は寝汗をかいて、万年床になってしまった布団で今も寝ているのです。

「・・・美鈴、美鈴」
カチカチ・・・。
なかなか良くなりません。
カチカチ・・・。
ぽろぽろと涙がこぼれました。
クリックをするごとに胸に痛みが走りました。

早く良くなって、一緒に遊ぼう美鈴。
外で変なジュースを飲もう。
もう頭をぽかりとやったりしないから・・・。

日一日と容体が悪くなっていく美鈴。
窓の外には秋の夜空に、うろこ雲が流れていました。
しかし、画面の中は相変わらずの蒸し暑い真夏の夜。
まるで高気圧が、重くのしかかって取れない呪いのように、二人を押し包んでいます。

私は、薄暗い美鈴の部屋で、膝を抱えてうずくまっていました。
美鈴が何か言いました。
それに対して、いつものように答えたつもりですが、声は震えていました。
「にはは・・・。美鈴ちん強いコ・・・」

美鈴・・・。
美鈴・・・。
涙がまたぽろぽろとこぼれます

そのとき、「選択肢」が表示されました。

「抱きしめる」
「体を求める」

この選択肢を見たとき、私は絶叫しそうになりました。
この二択。
このどちらかで、美鈴の運命が決まる!

人生最大の長考です・・・。
一度席を離れました。

正直私はもう、どうしたらいいのかわからなくなっていました。
かつてエロゲーでこれほど考えたことがあったでしょうか。
どっちだ?
どっちが正しい選択なんだ。
どちらも正しい気がしますし、どちらも美鈴を。
・・・死なせてしまう気がします!
死なせてしまう・・・??
冗談じゃない!

そして、考えに考え抜いた末・・・。

「抱きしめる」
「体を求める」←

という選択をしたのです。
ついに、耐えに耐えた、気持ちのタガが外れました!

「この大バカ者野郎!何考えてんだ」
「だって、しかたないんだよもう!彼女を救うには『本物の愛』しかないんだ!」
「相手は病人なんだぞ!息も絶え絶えの!お前、気が狂ってんのか?」
「戦地に赴く兵士が、愛する人と別れるときはもう、体を求めるしかないんだよ!」
「それはお前が戦争に行くときの話だろうが!今死にそうなのは美鈴なんだぞ!」
「いやでも、彼女の立場になったら好きな人に抱いてほしいんじゃないの!?」
「じゃあ『抱きしめろ』よ!アホか!苦しくて床に伏してる女の子に向かって!」
「だって!抱きしめたら壊れそうで・・・。」
「いやいやいや『ヤッちまう』方がよっぽど壊れるわ!!!・・・そもそも美鈴に好きだって言われたのかお前?」
「・・・。え?いや。俺は好きなんだけど。てかそんなん言われなくてもわかるし!」
「美鈴は処女なんだぞ!」
「・・・・・・」
「お前は救いたいんじゃなくて、お前が救われたいだけだ!これじゃ!」
「・・・・・・」
「お前はエロゲーをやりすぎた!」
「・・・・・・」

『体を求めた』私に対して美鈴は、辛そうに体を起こしました。
そして、病人のいる部屋特有のよどんだ空気の中・・・。
薄暗い布団の上で、私のために頑張って、ゆっくりとパジャマを脱いで・・・。
その青白い肌を、寝汗に濡れた裸をさらしたのです。

そこから先は地獄でした。
クリックするたびに、心臓に釘が刺さったような痛みが走りました。
私のために懸命に、病に侵された自分の身を捧げる美鈴。
違う!
自分は選択を誤った!
こんなことはしたくない。
したくないのに、止まらない!止まらない!
私は口に左手をやったまま呆然と、ただなすすべなく成り行きを見守りました。
そして初めて気が付いたのです。
今までさんざん他人を「悪魔」呼ばわりしておいて、
本当に「悪魔」になっていたのは「自分」だということを!

これまで私は『悪夢』や『雫』などの凌辱系エロゲーを興味本位で、ただの好奇心だけでやってきました。
すべては絵空事だから、「フィクションだから」と、悪行の限りを尽くしてきたのです。
あくまで自分とは切り離された、別の世界のこととして無邪気に遊んできた。
エロゲーだからと。
それが土壇場で、あろうことか美鈴にまで、同じようなただの「ゲームキャラ扱い」をしてしまったのです・・・。
自分が、もはやとっくに「現実と寸分たがわない愛着と思い入れを注いでいたこと」を、そのとき私はようやく理解したのです。

これは報いです。
これまでいろんなエロゲーで散々なことをしてきたバチが当たったのです。
そこから先は本当に記憶がありません・・・。

冬が近くなったころ。
私はいつしか「そら」という一羽のカラスになっていました。
そしてこの物語を最後まで見届けました。
ただ、カラスに成れて本当によかった。
ほっとしたことを今でも覚えています。


以上が私の懺悔のすべて。
罪人としての告解のすべてです。
取り返しがつかないところまで来て、そのすべてを愛していたことに今更気が付いたという、ありふれたお話。
美鈴に対して申し訳ないことをしたという、この気持ちが消えることは一生ないでしょう。
それこそ「美鈴が実際にどう思っているのかを知ろうとしない、ずいぶん手前勝手な解釈と理屈」かもしれません。
きっと、彼女は笑って許してくれるでしょう。
でも・・・だからこそ。

それ以降、これまで『アルマゲドン』でしか泣いたことのない私は、どのジャンルでも涙が自然とこぼれるようになりました。
これまでの自分を取り立てて否定する気もありませんが、何かしら「フィクション」というものに対する見方が、決定的に変わったのは間違いありません。

これがこの「AIR」という作品と付き合った日々であり。
神尾美鈴という少女が、私に教えてくれたことです。

それでは最後に、こっちが『国歌』だと勘違いしていた曲を聴いてお別れいたしましょう。
私めのようなものの告白にお付き合いいただき、どうもありがとうございました。
それではどうぞ、『Farewell song』。


Air - Ending - no credits - Farewell Song