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「なでこSMILE」のアニメ感想BLOG

アニメや漫画などについての、自分の思いを記録するブログ

コタⅢ

ポエム

初稿<2015/2/10>


人生の道の半ばで
正道を踏みはずした私が
目をさました時は暗い森の中にいた

ダンテ・アリギエーリ 『LA DIVINA COMMEDIA』


・・・暑い、いや熱い。
「それが最後のみかんです」
俺は、赤外線の明かりに照らされながら、むしむしと皮をむいて、最後のみかんを口にした。
「ぐびり。くそ、一体どうしたらこの悪夢から抜け出せるんだ?」
思うに、俺たちは長くコタツに入りすぎたのだ。
早くなんとかしないと、このままじゃいずれ干からびて死んでしまう。
砂浜に立てた掘っ立て小屋か、もしくは低温のサウナか。
「お前なんで気がつかなかったんだ?」
「あなただって」
気がついたのは我々が神経衰弱をしているときだった。部屋のカーテンだと思っていたのが、どうももこもこしている。
コタツ布団だった。

「あれ、今日曇りですか?」
「いいから早くめくれよ。どんだけ神経衰弱強いんだよお前」
「これと、これ・・・。えーとこれとこれ、あれカーテンがもっさりしてる!」
「いいから早く忘れるだろ!」
「これこれこれこれこれこれです」
「うがー完璧に短期記憶できる今風の探偵か!やめだやめ!」
そして俺は寝転んでコタツに片足を突っ込んだ。
ずぼ!
「うわー!!!」
そのときだ。
窓がある方向から巨大な足が唐突に室内に突き出された。
かちん。
コタツの熱が入る巨大な音が天井から響いた。
天井にはいつのまにか、まるまるとした赤外線の灯りがともっていた。
「こ、これは一体どういうことだ!!!」
部屋の四方は布団状の垂れ幕に囲まれている。
その一カ所から布団をまくりあげるようにして、巨大な右足が部屋の反対まで突き出していた。
「あ、あぶねー・・・。もうちょっと左だったらコタツごと粉々だったぞ・・・」
ゆっくり、そーっと入れた右足をコタツから引き抜く。
・・・ずずずずず。もさ。
「これ、気をつけて足を入れないとまずいぞ!・・・ん?」
「・・・・・・」
「なんだ、真っ青な顔して。どうかしたのか?」
「ど、動じなーい!!!動じなさすぎじゃないですか!理解早っ!」
ずず・・・!
その瞬間、巨大なひざが反対側のカーテンから覗いた。
「うわ!アブネ!早く引っ込めろ!」
「こ、これは一体・・・」
「だからね、これは俺らの足が出てきてるみたいだから、あぶねーぞ。さあ早く引っ込めろ」
「あなた、一体どういう神経してんですか・・・」
ずずず。引っ込めた。
「どうやら、俺たちのあたっているコタツに、俺たちは同時にあたられているようだ」
「はあ、はあ。何言ってるんですか・・・!?ちょっとゆっくり説明してください!」


そして今にいたるまで十八時間が経過した。
どうも我々はコタツの中へ閉じ込められてしまったようだ。
まず、脱出すべく部屋の四隅に掛かったこの垂れ幕の外へと向かったのだが。

「緞帳っていうか、体育館のあれみたいだな」
思わず立って見上げてしまう。
丁度カーテンのあるあたり、内側から外へと向かうようにコタツの赤い布団が垂れ下がっていた。
我々は腰をかがめると、布団の中に入り込んだ。
「はあ、はあ。いい毛布じゃねーか。こんだけあったら、寒い夜はさぞ寝やすいだろう」
「過ぎたるは及ばざるがごとしですよ。部屋をコタツにしても屋根にしか物を置けないでしょう。誰が使うんです?」
「そりゃそうだ」
今思えばこのとき気が付くべきだった。
これがこの悪夢から脱出する鍵だったのだ。

外には広大な空間が広がっていた。
だが、これが屋内であるのは、なんとなくわかる。
風がこもっていてるのだ。
今出てきた緞帳は天空から垂れ下がり、目の錯覚かその繊維の壁はゆらめいて見えた。
それにしてもまったく上が見透かせない。
空気がはるか彼方まで堆積していて、その向こうは光のない影に飲み込まれていた。
そして、どこまで続くかわからない暗黒の空のはるか彼方だけがぼんやりと赤く色づいている。
この世界の太陽、赤外線の灯りだろう。
「まるで、ダンテの神曲ですね」
「ああ、地獄ってたぶんこんな感じなんだろうな」
とりあえず、少し進むことにした。
カーペットの大地がどこまでも広がっている。
どこかに出口はあるのだろうか。
「それにしてもここの住人はどこに行ったんだ?」
「今さらに外に出ているんじゃないですか」
「まあそうなるか」
小一時間くらい歩いただろうか。
この道のはるか先の闇のなかに、うっすらとだが垂れ幕のようなものが赤く揺れていることがわかるようになってきた。
次のコタツ布団の内側だろう。
二人は顔を見合わせた。
「たぶんだが、こっちに出口はないな」
「そうですね・・・。広くはなってますが、よりコタツの奥へ奥へと進んでいっている気がします」
「汝が深淵を覗くとき、深淵もまた汝を覗いている」
「そんな感じですね」
そう考えると急に怖くなってきた。
俺たちは急いで俺たちの世界のコタツへ向かって走り出した。
そのとき。
どーん・・・・。
どーん。
「ひっ」
遠くで地響きのような振動が聞こえた。
おそらくこの世界の連中が帰ってきたのだろう。
二人して全速力でもとのコタツ布団の中へ飛び込んだ。


「水・・・とってください」
俺は買い置きの箱から、いろはす取り出して渡した。
あれから、まあ時間がすべてを解決するだろうと思った俺たちは、それから数時間をカードゲームについやし、CDプレイヤーで音楽を聴きながら、といっても一枚しかプレーヤーに入っておらず、残りは別の部屋なので、俺の一番好きなアニソンの『ひとさしゆびクワイエット!』を70回くらいかけたり、世界遺産の写真集を眺めて感想を言い合ったり、したが、コタツと化した部屋およびコタツと化した世界には一向に変化がなかった。
途中寝たりしたのでこれで十八時間。
「・・・確かに時間は解決してくれるでしょうけど、それは我々の命の最終解決も含んでいるみたいですよ」
「まずい、このままじゃ。干からびて死んでしまう!」
「あ、でもこんくらいの温度ならその前にいい感じに腐るんじゃないですか?」
「ひ!」
腐って死にたくはない。死んでも、腐りたくないのだ。
「おい、ちょっとこのコタツ。このコタツの中はどうなってるんだ」
「さっき話したでしょう。ループしてるって」
「・・・ちょっと覗いてみないか?」
「ひー!!!いやですよ!外の連中も一緒にこっちのカーテンをめくるんでしょう!」
「俺たちが中だとしたら、大の俺たちもまためくるわけか。・・・でも本当に小の俺たちなんているのか」
「といいますと?」
「つまりだ。コタツの中とこの部屋の中がつながっただけで、コタツの中は部屋とはなっていないんじゃないか?」
「え、ややこ!何をいってんすか一体?」
「だから、コタツのこの中が実は出口なんじゃないか」
「ほう、灯台もとくらしならぬ、コタツもとくらしですね」
「こたつは灯台と違って、足元を照らしてるけどな」
「だからこその盲点というわけでしょう」
「え?うーん、まあ?うん、そうだな。天井の赤外線がフェイクだったというわけだ。実はこのコタツの下には何もない!違うか?」
「わかりました。では外の連中が怖いので一緒にめくりましょう」
俺たちはそれぞれ反対側の布団のすそを掴むと、可能な限り隙間に顔を寄せた。そしてそーっと突っ込むように顔をもぐりこませた。


ずるずるう。
コタツの中は真っ暗だった。
・・・背後で同時に巨大な布を捲り上げる音がする。
そしてするどい視線を感じた。
今外から何者かが垂れ幕をめくり上げ、俺たちの姿を見つめているに違いない。そう思うとぞっとした。
「なあ・・・なんか見えるか?」
自然と小声になる。
手をいれるわけにはいかないので、顔だけをぎりぎりもぐりこませ、なかの様子を観察する。
「いえ、なんにも見えません。おかしいですね」
そのとき、かちんという音がして、ぽっと赤外線の灯りがついた。
スポットライトのように映し出されるコタツカーペット。
その真ん中に、なにか小さなものがいた。
小さな茶色い台に、小さな布切れがかかっている。
それはミニチュアでできたようなコタツだった。
「・・・・・・・」
だが問題はその周りだった。
体をかがめて必死に顔をかくすようにしている何かがいた。
その二つはこちらに見つからないように、ミニチュアコタツの中に顔を突っ込んでいるように見える。
「・・・こいつらって、ひょっとして」
「手を入れるなって!」
その瞬間、天井に何かがあたり、室内にものすごい振動が響いた。
「うわ!すみません!」
急いで手を引っ込める。
それと同時に友人がうっかり、コタツから顔を出してしまった。
そして、
「ひゃあああああああ」
という悲鳴をあげた。
その声を聞きながら、俺ははっきりと見た。
中にいる小さいやつの顔を。
それは今悲鳴をあげている友人。
友人の顔、そっくりだった。


「おいおい大丈夫か・・・」
「あー・・・びっくりした!」
俺もコタツから顔を出すと、友人をなだめた。
「と、とてつもない大きさの目球がどーんって壁から覗いてんだもん」
いろはすを飲みながら、外で見た巨人について話している。
「俺の顔だっただろ?」
そういって焼き芋を手渡した。
干し芋になっていた。
「むしゃ。そんな余裕なかったですよ。とにかく目!アーリマンとか水木しげるの妖怪みたいな巨大な目です!ごくごく」
「目玉ねえ」
俺はそれからコタツの中にいた小さいやつの顔の話をした。
「うーんやっぱ、中の連中は俺たちってことでしょうか」
「さあなあ」
ところで、そういながらコタツの上にこれまでなかったものが目に付いた。
「あれ、このCDどうしたの?」
俺はさっきまでなかったCDを手に取った。
俺たちの一番好きなアニソンである『本日満開、ワタシ色』だった。
「さっき急いで手を引っ込めたとき、コタツの隅に隠れてたんでしょうね。手にあたって、そのまま出てきました」
「おいおいそんなものあったのか?」
「そうですよ。何も『ひとさしゆびクワイェット!』ばかり聞く必要なかったんですよ。かけましょうか」
「ああ」
友人はCDプレーヤーにセットした。
何かがおかしい。
俺はコタツの上に乗っているものをまじまじと見つめなおした。
ヒナギクが歌う中。
コタツには眼鏡、みかん、世界遺産の本、CDケースが二枚、トランプ、ウノ、簡易将棋、簡易オセロ、お絵かき帳、ペン、人生ゲームのお金だけ、干し芋きりひと賛歌が載っていた。
そして周りにはゴミ箱と買い置きの水の箱(いろはす)、ティッシュ、一番小さな本棚など、部屋がコタツ化する前に、壁よりも手前においてあったものが少しだが残っている。
四隅には、柱となったコタツの四本足。そして、垂れ幕・・・。
「なあ、もう一度聞くけどこのCDはどこにあった?」
「ですからコタツの中です。隅っこ」
残りの水は後一本。
「ちょっと頼みがあるんだが」
「なんです?」
「もう一度だけ、外を覗いてくる。何かあったらすまん」
「え、何かわかったんですか?」
顔を覗き込んでくる友人。
「いや、何もわかりゃしない」
「わかりました。一緒に行きますよ」
「いや、ここにいてほしいんだ」
「え!すると外の俺たちに鉢合わせになりますぜ」
「そうだ。でも、連中が俺たちそのものなら、何もしてこない。そうだろう?」
「そりゃそうですよ」
「でも、実はただの目玉の妖怪だったらどうするよ?」
友人は何を言ってるのかよくわからないという顔をした。


俺は再び分厚いカーテンの中を潜り始めた。
友人がいる場所の丁度真後ろにあたる方角だ。
しばらく進むとまた出口が見えてくる。
果たしてそこには何があるのだろうか。
俺の考えによるとだな。
たぶん害はないと思うんだけど。
「うぬ、熱い・・・え?」
こちらに向かって、風が吹いている?
さっきは風などなかったのに。
いや、違う。
この圧迫感はなんだろう?
行き止まり・・・?
上昇気流のような・・・。
俺は上を見上げると軽く悲鳴を上げた。
「ひ!」
そこには、コタツ布団の前に胡坐をかいている、巨大な足があった。
ごくりとつばを飲み込む。
空間がゆがむがごとくその姿を上へ上へと伸ばす。
まるで超高層ビルをその真下から見上げたかのようだった。
「・・・まるで大仏か?」
その上空は光の届かぬ暗闇で、腹のあたりぐらいしか見通せない。
しかし、それより高くに頂があることは感覚でわかった。
見上げるとそれは目の錯覚か、こちらへぐらりと倒れてきそうだった。
赤黒く光る空を背後にして。
「史上最大級だな。牛久大仏よりでかいだろう」
ふう。
とりあえず、第一段階はOKだ。
問題は次だ。
俺はとことこと大仏の脚に近づいた。
「下手したらこれで俺もジ・エンドかもしれん」
そして、靴下とズボンの間の素足の部分に近づくと、せーのと力をこめて足毛を一本引き抜いた。


「おーい、帰ったぞ。どうだった?」
「そりゃこっちの台詞ですよ。大丈夫でした?」
「おうそれがな・・・、って、あれ!この曲は!?」
「僕の一番好きなアニソンの『スキ?キライ!?スキ!!!』ですが」
「え!今度はどこにあったんだ!?」
「『ひとさしゆびクワイエット!』のケースの中に入ってました」
「なんだよ!じゃあ最初から二枚聴けたんじゃねーか!」
「歌詞覚えてますしね」
「そうか。じゃあ今回は関係ねーな」
「で、外のやつはどんなんでした?」
「目玉の妖怪じゃなくて大仏だった」
「は?大仏?」
「ああ、ブルジュアルハリファみたいなお前の大仏だった。で、この様子じゃそっちにはなんにも起きなかったみたいだな」
「え?ええ。私はルイズの歌を聴いてただけです」
「ふむ。じゃあちょっと、足を見せろ」
「え!足なんで?」
「いいから左足をこっちへ出せ」
「嫌だ」
「いいから、ちょっと靴下脱いでみ」
「嫌だ。ちょっと、やん!」
「いいから、いいから!」
「そんな、嫌だ!絶対!ぜったいに嫌だ!!!」
「えー!!!なんでそんな嫌なの!?」
「気持ち悪いから」
「まあ・・・ねえ。でも非常時だし。お前もそうとう動じてないよな」
「慣れるのが早いだけです」
「わかった。ならまず俺の話を聞いて、納得したら、足を見せろ」
「なら。いいですよ」
「昔、天竺へ向かう三蔵法師というぼんさんが居てだな」
「居ましたね」
「そのお供に猿の孫悟空という妖怪が居てだな」
西遊記ですよね。はい」
「そいつは自由に雲に乗ってはるか天界の果てまで飛んでいけると、お釈迦様に啖呵を切ったんだ」
「でも、結局どこまで飛んでもお釈迦様の手のひらの上から出ていなかったって話ですよね」
「そうだ。そんで最後地の果てまで言った証拠に壁に落書きをしてくるんだ」
「指でしたっけ?ドラえもんだと真っ白い手でしたけどね」
「そうだ。だからほれ机の上を見てみろ」
「なんです?」
「何かなくなってるだろう?」
「みかんがなくなっていますね」
「あ、お前最後の一個食いやがったな。そうじゃなくて、それ以外は?」
「ペンがなくなっています」
「そうだ。俺がそのペンで外の大仏の足に落書きをしてきた」
「本当ですか。どおりで遅かったわけだ」
「最初は毛を抜いていた。でもでかすぎて、毛なのか産毛なのかわかんないから、足首の外側あたりにできる限りでかいみかんの落書きをしてきた」
「みかんの。丸でいいじゃん」
「つまり。外のやつらと俺たちが完全にリンクしているなら、お前の足にも同じ落書きがあるはずなんだ」
「なるほど」
「納得したか?」
「はい」
「じゃあ足見せろ」
「はいどうぞ」
「うーむ」
「・・・何にも書いてないですよ」
「途中ちくちくしなかったか?」
「毛をむしったからですか?別にそんなん感じなかったな」
「よし」
「じゃあ、次の質問だ」
「お前が『スキ?キライ!?スキ!!!』を聞いてたとき、この普通のコタツからなんか出てきたか?」
「ああ、出て行く前言ってたやつですね。リトルピープルが出てくるっていう」
「うん、いい名前つけたな。・・・俺によく似たリトルピープルは?」
「出てきませんでした」
「よし。じゃあ、最後の質問だ!」
「はい」
「神経衰弱の強いお前に聞くぞ」
「はい」
「さっき一緒にこの普通のコタツを覗いたとき、ミニチュアのコタツの上に何が載ってたかわかるか」
「何も載っていませんでした」
「これで脱出方法がわかった」


グラグラグラグラ!
がたがたがたがた!
「ひい!」
今俺たちの真上には巨大な手がかざされている。
天井の赤外線の赤を背後に奈良の大仏のような黒い手だ。
「し、し、し、死ぬ!やっぱり間違いですよ」
「いーやこれで正解だ」
まるで二階で工事でもやってるかのような轟音が鳴り響く。
「行くぞ!一か八かだ!うおおおおおおおおお」
「ひいいいいいいいいいいい!」

・・・その五分前。

「脱出方法がわかったって、ここからのですか」
「そうだ。俺の話を聞くか?」
「聞きます」
「よし。じゃあ俺の希望的観測に基づいた推理によるとだな・・・」
まず、わかった事実から述べるか。

その1:縮尺が合わない。

「どういうことです?」
「さっき外の世界に一緒に行っただろう?」
「ええ、行きましたね。どこまでもコタツが広がっている」
「いくらなんでもでかすぎだろ」
「それ事実ですかね?」
「・・・いいから。えー、この世界は小、中、大のコタツの層にわかれて存在しているよな」
「そうですね。そこまでしか見てないですけど」
「それで大の世界なんだが。なんで、こちらから見たら壁の高さまでしかないコタツ布団の垂れ幕が、外に出たら高さがあんなアホみたいに高いんだ?」
「そういやそうですね・・・。そういう世界なんだと思ってましたが」
「それで俺は考えたわけだ。・・・実はこの世界、本当はリンクなんかしてないんじゃないかってな」
「といいますと?」
「つまり、垂れ幕を通して、全然別の空間につながってるってわけだ」
「なるほど。実はコタツの外はある、と。出ようとすると、別の場所にワープさせられる、とこういうわけですね。でも出られないなら閉じ込められていることに変りはないですよ」
「それだ」
俺は指をぱちんと鳴らした。
「閉じ込めてるのは一体だれだ?」
「え・・・誰なんでしょうか?」

その2:あるはずのものがない。

「お前はどれくらいのことなら完璧に覚えていられるんだ」
「体調にもよりますが、写真みたいに覚えるだけなので、二日が限度ですね」
「なら充分だ。さあ思いだせ神経衰弱のプロ」
「なんでも聞いてください」
「俺たちが外の世界に行ったとき、果てしない荒野のどこかに、このゴミ箱や本棚なんてものが、あったか?」
「えーと、やっぱでかいはずですよね」
「もちろんだ」
「ありませんでしたね・・・」
「そして、さっきも言ったとおり、このコタツの中にもミニチュアのゴミ箱とか、机の上になんかあったか?」
「うーん、机の上にはなにもなかったです。でも、まわりは暗かったからなあ。もう一回見てみます?」
「無駄だ。たぶん今ならもうある」
「どういうことです?」
「俺たちの会話は連中に聞かれているからな」
「連中?・・・ごくり」

その3:ないはずのものがある。

「そしてこれが極めつけだ。お前が見つけたこのCD」
「ああ、『本日満開、ワタシ色』ですか」
「これが出てきたことが、決定打だ。いいか、コタツの足の下にこれがあったんだぞ」
「そうですね」
「この部屋の四隅のどこかに、でかいCDなんかあったか?」
「あ!」
「そうだ。そんなもんがあれば一瞬で気がつくはずだ」
「というと、どうなるんですか・・・?」
「俺たちのいるこの世界。これ以外はすべてまやかしってこった」


ごくり。
部屋に静寂が訪れた。
「まやかしですか」
友人はきょろきょろとあたりのカーテンを見渡している。
「そうだ。本当にあるのはこの部屋と俺たちだけだ。あとは、そっくりそのまま偽物ってわけ」
「確かに、この部屋はあまりにもリアルですが」
「お前言ってただろ?」
「何をです?」
「部屋全体をコタツにしても、屋根にしか物が置けないってなことを」
「そうでしたっけ?」
「そうだよ。じゃあ、物が置いてある屋根ってのはどこだ?」
「えーっと。・・・このコタツ、だけ?」
「そうだ。外のあのばかでかいコタツも、小さいコタツも、一体誰が使うんだよ。リトルピープルの机には何もなし。外のビッグブラザーに至っては、机になってるのかどうかすら観測不可能だ」
「なるほど。過ぎたるは及ばざるがごとし。コタツ世界の中で唯一コタツ足りうるのは・・・」
「このコタツだけ。したがって俺たちが本物で、あとは偽物だ。そして偽物がいるということは、作為があるってことだ」
「それがさっきから言ってる連中ってことですか。ちょっとわかりかけてきました。つまりは化かされているってことですね」
「そうだ。目玉の妖怪にな」

友人は説明に大きくうなずいた。
だがまだあれこれ考えては、首をかしげている。
「あの、二三、疑問があるんですけど」
「なんだね明智君」
それじゃあまず・・・。

その1:動機はなんでしょう?

「で、その目玉の妖怪の仕業だとして、動機はなんでしょう?」
「さあ、知らん」
「そうですか・・・」

その2:おしっこに行きたくならないんですが。

「あの、ところでもうひとつ質問があるんですが?」
「なんだ?」
「私たちもう何十時間も閉じ込められてるのに、トイレに行きたくならないですよね」
「そうだな、気がつかなかったけど」
「なんででしょう」
「ラッキーだったじゃないか」
「そんだけですか?」
「うーん、妖怪の仕業だからな」
「そうですか・・・」

その3:で、肝心の脱出方法は?

「で、肝心の脱出方法は?」
「この本物のコタツの下にいるリトルピープル。あいつらがこの現象を起こしている妖怪の本体だ。あいつらを叩き潰す」
「ひい!」
友人は悲鳴を上げた。
「そんなことしたら私たちもただじゃすまないじゃないですか?」
「なんでだ?」
ビッグブラザーが同じように我々を叩き潰すでしょうよ!」
「それがそうならないんだよ」
「なんでです?」
「さっき、この三つの世界は実はリンクしてないんじゃないかと言っただろう?」
「はい」
「俺はさっき外でビッグブラザーの足の毛抜いて、落書きを確かにしてきた」
「らしいですね」
「でも、お前の足には何の影響もなかった」
「はい」
「そして、リトルピープルも出てこなかった」
「ええ、出てきませんでした」
「つまりだ。実はあいつらは、俺たちに手が出せないんだよ」
「え、でも落書きしたりしたんじゃないですか」
「そうだ。つまりこちらからは手は出せるが、あいつらからは手が出せない。連中にできるのはせいぜい脅しだけだ。さもリンクしてるように、タイミングを合わせて足を出してみたり、手を出してみたり、部屋を揺らしてみたりといったことだけ。小さいコタツを覗いたらあわてて演技して見せただけだ」
「うーん、確かに実害はなかったですけど・・・」
友人はなんだか納得しきれない顔をしていた。
「よし。じゃあ俺の話を聞くか?」
「聞きます」
「見越し入道という妖怪がいる」
「え、見越し入道ですか?」
「ああ。こいつはぼんさんの格好をしているんだ」
「また、ぼんさんですか・・・。坊主の話ばかりですね」
「・・・いいから。道ですれ違うとそのぼんさんはどんどんでかくなるんだ」
「え、ぼんさんでかくなるんですか」
「そうだ。で、そのままぼんさんがでかくなるのを、見上げていると死んでしまうんだ」
「えー!?なんで?」
「わからん。だが見てると死ぬ」
「・・・それで、どうするんですか」
「そのままでかくなるのを見てる途中に大声で、見越した!と叫ぶんだ」
「ほう、するとどうなります?」
「助かるんだ」
「はあ・・・ひどいぼんさんですね」
「そうだ。だからこれも一緒だ。さあ、叩き潰すぞ」


10

グラグラグラグラ。
「ひいいいいいい!!!疑問その4:外のビッグブラザーが本体だったらどうするんですううう!!!!!」
「あんなデケーもんどうやって倒すんだよ!超魔界村のサマエルじゃないんだから!!!」
今、カーテンの幕は大きく開かれ、そのむこうから巨大な友人の顔がじっとこちらを覗いていた。怖がって何やら叫んでいる様子がよけいに不気味だ。
「疑問その5:リトルピープルが完全に俺たちそのものにしかみえないんですがあああああ!!!!」
「だからいっただろ、こちらの話を聞いてスキを無くしてきたんだって。そのためにお前の完全記憶であらかじめ言質を取っといたんじゃないか」
今目の前にあるコタツのなかは、コタツ机の上からその周辺に至るまで、この部屋の俺たちの様子が完全再現されていた。
周りにも本棚や、ゴミ箱があり、服装もそのまま。
きりひと賛歌世界遺産いろはすも何もかも一緒だ。
赤外線の灯りを受けて、まるで定点カメラか何かを覗き込んだように精密な模写された俺たちがそこにいた。
それはもはやコピーなどでも何でもない。間違いなく、俺たちそのものだった。
そして俺の手におびえて、ぶるぶると震えている。
ぐらぐらぐらぐら。
奈良の大仏のような巨大な右手が天井に当たるたび、ずしーんずしーんと世界が芯から震えるような振動を味わう。
そしてそのたびに、俺たちもリトルピープルも同じように恐れおののいた。
「駄目駄目駄目です!こいつ、あんたの顔にそっくりじゃないか!つぶしたら一巻の終わりですよ!」
「いいんだって!もしこの世界が無限にループしてるとしても、そしたらビッグブラザーもそのさらに上のビガーブラザーによって叩きつぶされることになるんだから!この世界をぶっ壊す方法はこれ以外考えられん!てことは正解だ!」
ぐらぐら揺れるこたつ部屋の中で、ミニチュアの俺たちに狙いを定める俺たちたち。
「行くぞ!一か八かだ!うおおおおおおおおお」
思いっきり手を振り下ろす俺。
その瞬間、上空の大仏の手のひらも俺たちめがけて振り降りてきた。
「ひいいいいいいいい南無阿弥陀仏!!!!!!!」
「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」
俺の右手が友人そっくりの小人に迫る。
その顔の表情たるや!
ディズニーアニメのような、蕩けんばかりの狼狽しきった24コマで絶叫しているではないか。
そして、まさに潰されんとしたその瞬間だった。
その友人の顔が急に、猫のような鼠のような奇妙な顔に変化したのを俺は見逃さなかった。
「きききー!!!」
そして猿のような声がそいつから発せられたのと同時に。
ばしーん!
俺はそいつらを叩き潰した。


11

「ん?」
止まった。大仏の手が直前で止まった。
そして、薄くなって消えていった。
「おおおおおおお!」
ばさり!
そして、まるでテーブルクロス引きのように、垂れ幕が天から引き払われ、我々の眼前は遠く開けた。

日の光が白く目を刺す・・・。

ざざーん。
360度、視界いっぱいの青い海が広がっていた。

「え、あれ!?」
俺のアパートには壁がなかった。
天井もなくなっていた。
床の切れ目でカーテンがあった丁度向こうは、そのまま崩れ落ちてむき出しの鉄筋コンクリートから鉄骨が覗いている。
キッチンを隔てる壁もなく、一階まで手すりのない渡り廊下のさきに便器が置いてあった。

「・・・おい。こりゃどうなってんだ」
「・・・さあ。ここはどこでしょう」

夕暮れの日差しの中。
そこだけ海中から盛り上がった岩山の上に俺のアパートの廃墟があった。
俺の部屋だけを残った六本の錆びた柱が支えていた。
潮のにおいが、もう朽ち果てて何年も経っているといったふうの、黒ずんだコンクリートの隙間から漂ってくる。
そして、やせた樹が何本かもたれるように生えていた。
軍艦島の縮小版みたいな、ここは島だった。

俺たちは呆然としながらしばらくそこにたたずんでいた。
しばらくして、俺は玄関に向かった。
下からの階段につながる形で、ドアだけがぽつりとそこに立っていた。
郵便受けには新聞がたまっていた。
俺は風化しつつある新聞を引き抜いて部屋に戻った。
水の流れる音がするのでみると、友人がキッチンで顔を洗っていた。
「水は使えるのか・・・」
そして、新聞を広げた。
「え、あんたガーディアンなんか取ってんの!?」
「ああ、どこでも届けてくれるのが幸いしたようだ」
しばらく、二人して新聞を読んでいたが、頭をかいて顔を見合わせた。
「ようするに、あーだこーだ戦争している間に世界は水没したみたいだな」
「そうですね。やっぱアルゴアに入れとけばよかった」
「選挙権ねーよ」
俺たちはコタツに脚を突っ込んで寝転がった。
「そういや・・・・久しぶりのコタツですね」
「そうだな。コタツ化した世界じゃコタツにあたれなかったからな」
「コタツにあたられるだけで」
電気もなぜか来ている様だ。

「疑問その・・・いくつか忘れましたが。このコタツはどういうコタツなんです?」
コタツに寝転んで、遠く水平線を見ながら友人は訪ねた。
「その6だ。ばあちゃんの使ってたコタツだよ。実家の物置の奥で見つけたのを俺が面白がってもらってきたんだ」
「ああ、広島の?」
「そう」
空は夕暮れの銀と白い光を放っていた。
季節は夏かな?
「骨董品だから魂が宿るというあれでしょうか」
「・・・うん?ああ、妖怪の話か」
あまりに穏やかな気候なので、妙なくつろぎのようなものを感じていた。
「そうだな、たぶん。新聞の記事に世界大戦があった、ようなことが書いてたから、このコタツが守ってくれたんだろうな」
「今は戦後何年目になるんですかね」
「・・・俺の話を聞くか?」
「聞きましょう」
「まずお前の言ってた疑問その1の答えは、太平洋戦争すら経験したこのコタツは妖怪になって、俺たちを守ってくれたんだろうな」
「そうですね」
「そんで疑問その2。おしっこに行きたくならなかったのは、時間がコタツ世界の中じゃ停止していたからだろう。たぶん。俺たちは部屋ごと神隠しに合った形になったんじゃないかな」
「あ、なるほど」
「あの、疑問その7・・・」
「なんだ?」
「妖怪たちは消えたんでしょうか」
「いや、電気が来てるし、水が使える意味も不明だ。たぶんまだ、ここにいる」
「そうですか。悪いこと言っちゃったな」
「なあ」
「なんです?」
「俺の番だ。疑問その1」
「はい」
「人類、滅んだんかな?」
「・・・大丈夫だと思いますよ」
「何でそう思う?」
「だって俺たちがこうして日本の妖怪に助けられたように、助かった人たちがきっといますよ」
「そうか」
「例えば、韓国人ならオンドル式妖怪に、ロシア人ならサウナ式妖怪に」
「なーる。イタリア人なんか案外風呂の遺跡に守られてそうだしな」
「アメリカ人だって、騎兵隊が助けに来たでしょう」
「ははは。それか・・・エイリアンかもな・・・」

気がつくと彼は寝息を立てていた。
日本は沈没してしまったけど、僕たちがいる以上国までなくなったわけじゃない。
ここはドライランド。
そのうち、ケビンコスナーが来るかもしれない。
僕はトイレにたった。
その帰り、トイレの脇のCDラックに一枚残ったCDを見つけた。
埃を払うと、それは僕たちの一番好きなアニソンの『君にまつわるミステリー』だった。
そして、みかんをひとつ食べて寝転がった。
千反田さんと摩耶花が歌うなか、目を閉じた。


そのとき。
ざざーん。
ふと、僕は何かを見落としている気がした。
あのコタツ世界から脱出して今にいたるまでの間で。
微かな違和感が頭にかすめた。
僕は今日見てきた、頭の中の写真をあれこれと繰り始めた。
机の上やビッグブラザーたちの顔。友人の顔。
だが、特に何か画像でおかしいところはない。

残念ながら僕が短期記憶できるのは画像だけだ。
台詞なんかは忘れてしまう。

なんだろう。
何を・・・。
何を見落としているのだろうか。

・・・・・。
ざざーん。

夜が来た。
二人はぐっすりと寝入ってしまった。
あたりには波の音しか聞こえない。
月の光が照らすコタツの上には眼鏡、世界遺産の本、CDケースが三枚、トランプ、ウノ、簡易将棋、簡易オセロ、お絵かき帳、人生ゲームのお金だけ、干し芋きりひと賛歌、そして新聞が載っていた。
むくむく。
丁度コタツの真ん中あたりだろうか。
何かが下からぷっくりと浮かびあがってきた。
ぽん。
みかんだった。
みかんは何事もなかったかのように出現すると、くるくると回転し始めた。

・・・このみかんは一体なんなんだろう。
・・・一体どこからきて、どこへ行くのだろう。

コタツは、最初からそれだけがずっと不思議だった。
時間を止めていたのだから、お腹も減らないはずなのに。

ざざーん。
波の音が繰り返し聴こえる。
どこか別の世界、どこか別の時間と交信するかのように。
みかんはきりきりと回り続けていた。


未完



【桂雏菊MAD】本日、満開ワタシ色!

(約13000字)

inspired by
・ヴァージニアウルフ『燈台へ』
カフカ『城』
京都アニメーションけいおん!
あらゐけいいち『日常』

influenced by
米粒写経寿限無論』