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「なでこSMILE」のアニメ感想BLOG

アニメや漫画などについての、自分の思いを記録するブログ

gravity uekibachi

ポエム

初稿<2014/03/11>


K市のこの辺りは震災後、高級住宅地として再開発された。
赤ちゃんは昼寝から起きた。
母親はマンションの集会所のドアを開けた。
分譲マンションが飛ぶように売れる時代ではなくなっている。
明るい陽射しが南側のベランダから当たっている。
旦那の学歴の話ばかりする主婦に限って教育ママである。
それでも駅前一等地の新築マンションだと話が違う。
布団を叩くことすら禁止のベランダにはゴムの木の鉢植え。
この地方じゃ私立に入れないと選択肢が少ないから。
ニ十階建て高層マンションはニューファミリー向けだ。
テーブルから外の様子を見ようと這い這いで窓へ近づく。
息子にはどうか学習に最適な環境を与えたい。
海まで見渡せる絶景で晴れた日には大きな橋がくっきり。
テレビは幼児向けから小学三年生の算数向けに番組が切り替わっていた。
私は勉強ができるほうじゃなかったけど。
もちろん耐震構造である。
ベランダに鍵がかかっていないが、頑丈な手すりがあるので安心だ。
息子にはきちんとした教育を受けさせたいのだ。

最上階。
ベランダへ出る。
高級マンションのドアキーを入力した。

この家は旦那の趣味でベランダガーデニングをしている。プチトマトやシソ、パセリなどの主に手料理で作るイタリアンなどに使うため、白いプランターがいくつも陽射しを浴びている。
だが唯一ゴムの木だけは母親の独身時代からの持ち物で、東急ハンズで買ってきたものだ。孤独をまぎらわすため何気なく買った唯一の観葉植物には葉が六枚ついている。
普段は室内に置いているのだが、少し弱ってきたため剪定用具やジョウロなどを収納している物入れの上に置いている。今日の晩、高く伸びすぎた枝を切りたいという旦那のために出しておいたのだ。
ついでに床を掃除をしたためそのまま台の上へ置き忘れてしまった。
春が近づいた心地のいい風は時に強く、何気なく置いた植木鉢は倒れ枝が手すりへもたれかかった。
その重みで物入れ自体も片足を上げ、ベランダの外へ向けて傾いた。

かたん。

いつもと少し違う情景、少し大きな音を立てるベランダ。
雨土のにおいがする春風が網戸から吹きぬける。
赤ちゃんはよちよちと歩きだす。

エレベーターのボタンを押す。
青い空と明るい陽射し。
気持ちの良い午後の平日。
電気の音が静かにする。
裸足のままで近づく。
二十階のボタンを押す母親。
落下する植木鉢。

息子には常識をわきまえ、品行方正、明るく元気に育ってもらいたい。
ぐらぐらする棚の足を手で捕まえよう。
落下する植木鉢スピードを上げて。
mixifacebooktwitterにline、weblogmyspaceなんかで情報を脳みそに叩き込んでやる!
半分回って滑り出したゴムの木の鉢。
私がfirewallであらねばならない。
芸能ゴシップやへんな言葉使いや流行タレントやイジメのワイドショーを見せたくない!
手で引っ張るとがしゃんと元に戻る物入れ。
パソコンでスマホタブレットキンドルでマックブックエアでモニターで!
電気がうなり急速に上昇を始めるエレベーター。

重力が大きくなっていく。
母親が上がってくる。
植木鉢が落ちていく。
テレビが歌う。
DownDown,UpUp.
DownDown,UpUp.
だんだん、あっぷあっぷ。
「でも、おっきくなれ!」

そのままスロープを描いて手すりを越えた植木鉢。

青空にゴムの木が跳ねる。
赤ちゃんはそれを見ていた。
雲一つない晴れた日に。
笑って見上げていた。
目をつぶる母親。
深緑の葉。
こぼれた黒い土。

落下を続ける植木鉢。
再開発新築高層駅前高級分譲絶景耐震マンション二十階。
高速で落ちていく。
早く落ちて行け。
見つめる赤ちゃん。
早く息子に会いたい。
目をつぶる母親。
再開発新築高層駅前高級分譲絶景耐震マンション二十階へ急ぐ。
再開発新築高層駅前高級分譲絶景耐震マンション二十階から、
植木鉢落ちろ!

ガチャ。
ドアが開いた。
ママだ。
ママが帰ってきたぞ。
赤ちゃんは振り向いた。
笑顔で出迎えよう。
植木鉢はまだ落下している。
まだぶち当たっていない!

ぐしゃ。